🐶犬
泌尿器科
循環器科
公開日
2026.6.24
更新日
2026.6.24
こんにちは!リベ大どうぶつ病院 院長の林です。
🌀 高齢で心臓病の診断が出ているけど、他の部位の手術は受けられるの?
🌀 麻酔が心配だけど、心臓への負担をできるだけ抑えて手術はできるの?
こんな不安を持つ飼い主さんは少なくありません。
心臓病があっても、術前にしっかり状態を確認し、麻酔や術中の管理を工夫すれば、手術を検討できる場合があります。
今回は当院の症例をもとに、検査から手術、術後までの流れをご紹介します。
※本記事は、飼い主さんに許諾を受けた上で症例紹介をしています。
犬種:チワワ
性別:メス(避妊済み)
年齢:12歳10か月
以前から他院で、心臓の弁がうまく閉じなくなる病気(僧帽弁閉鎖不全症)と膀胱結石を指摘されていたワンちゃんです。
心臓の働きを助ける薬(ピモベンダン〔ベトメディン®〕)を服用しながら、日常生活を送っていました。
鼻炎での来院でしたが、あわせて「今後、心臓病や結石とどう付き合えばいいのか不安で…」というご相談もありました。
高齢の子は複数の病気を抱えることも多く、治療に迷う飼い主さんは少なくありません。
そこで「まず手術ができる状態か評価してみましょう」と、心臓の状態を調べることから始めました。
まずは現在の心臓の状態を詳しく調べました。
心臓の超音波検査(心エコー検査)では、以前から指摘されていた僧帽弁閉鎖不全症に加え、三尖弁閉鎖不全症も確認しました。

<心エコーで確認した主なポイント>
✅️ 心臓(左心房)の著しい拡大はなし
✅️ 血液を送り出す力(収縮能)は維持されていた
✅️ 肺の血管への負担(肺高血圧)を強く疑う所見もなし
次に、お腹の超音波検査で膀胱結石を確認しました。
膀胱底部のあたりに、約1.3cmの大きな結石が2個見つかりました。

膀胱結石は、血尿や頻尿のほか、尿道に詰まると排尿できなくなり、特に小型犬では命にかかわることもあります。
この子は目立った排尿の異常こそなかったものの、尿検査で血尿と結晶(結石のもと)が見つかりました。
このままでは、いつ尿道に詰まってもおかしくない状態でした。
詰まってからの緊急手術になれば、心臓に負担がかかった状態で麻酔をかけることになり、リスクがぐっと上がってしまいます。
飼い主さんは心臓病への不安から手術に踏み切れずにいましたが、リスクと選択肢を具体的にお伝えすることで、前向きに検討いただけました。
手術前は必ず術前計画を立てます。
今回は心臓病に加え高齢でもあり、起こりうることを想定して備えました。
麻酔前には、ASA分類という指標で麻酔のリスクを評価しました。
全身の状態をもとに、リスクを5段階で見るものです。
ASA | 全身の状態 | 例 | 麻酔関連の死亡リスク(犬) |
|---|---|---|---|
1 | 健康な状態 | 病気のない子 | 約170〜2,000頭に1頭 |
2 | 軽い病気がある/落ち着いている | 高齢、肥満、状態が安定した心臓病 など | 約140頭に1頭 |
3 | 重い病気がある | 進行した心臓病、貧血、脱水 など | 約75〜100頭に1頭 |
4 | 命にかかわる重い病気がある | 心不全が悪化した状態 など | 約5〜6頭に1頭 |
5 | 治療をしても危険な状態 | 重度のショック など |
心臓の状態が比較的安定していたため、今回はASA2〜3相当。
死亡リスクはゼロではないものの、慎重に麻酔管理を行えば手術は可能と判断しました。
飼い主さんにもリスクを伝えてご納得いただき、膀胱切開手術を行う方針となりました。
麻酔担当スタッフと打ち合わせ、心臓に負担をかけない麻酔を行うため、次の4点を重点的に管理しました。
<麻酔管理の4つのポイント>
✅️ 心臓の薬(ピモベンダン)を手術当日も継続:安定した状態を保つため
✅️ 点滴を控えめに調整:多すぎると心臓の負担になるため
✅️ 鎮痛薬で痛みを抑える:痛みは心拍・血圧を乱すため
✅️ 心拍数をコントロール:今回は100〜110を目安に。小型犬では血流維持に大切なため
手術中の心拍数・血圧は、いずれも安定していました。
控えめな点滴で血圧も大きく崩れず、鎮痛もよく効いて急な変動はなく、トラブルなくスムーズに手術を終えられました。
起こりうることに先回りで備えておくことが、心臓への負担を最小限に抑えることにつながります。
手術後の成分分析の結果、シュウ酸カルシウム結石とわかりました。
この結石は再発しやすいため、術後も次のケアが大切です。
<再発予防のために続けたいこと>
定期的な尿検査・超音波検査
結石を防ぐ専用の食事
水分補給

「散歩中に石を食べたから結石になったの?と聞かれることがありますが、これは誤解です。口から入った石が膀胱に溜まるわけではありません。膀胱結石は、尿の成分が体の中で結晶化してできるもの。だからこそ成分を分析し、再発を防ぐ食事選びに役立てています。」
結石を摘出できたことで、術前にあった血尿や結晶は見られなくなりました。
心臓が安定しているうちに対処でき、将来の尿道閉塞などのリスクも防げたと考えています。
心臓検査でも悪化はなく、現在もピモベンダン(ベトメディン®)を続けながら、定期的に通院でフォローしています。
麻酔にリスクはつきものですが、今回のようにしっかり準備すれば、そのリスクを下げられるケースは多くあります。
「心臓病の子に手術が必要かも」と感じたら、まずはお近くの獣医師にご相談ください。
当院ではセカンドオピニオンも承っていますので、他院で検査を受けて悩まれている方も、その子に合った治療を一緒に考えていきましょう。
▶︎ 関連コラムはこちら「犬・猫の手術前検査|必要な理由・検査内容・費用を獣医師が解説」
【参考文献】
枝村一弥. ロジックで攻める!! 初心者のための小動物の実践外科学. チクサン出版社, 2007.
Brodbelt DC, et al. The risk of death: the confidential enquiry into perioperative small animal fatalities. Vet Anaesth Analg, 2008, 35巻, 5号, p365-373.
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